Hammond M-3大図鑑


  M-3といってもBMWではありません。日本ではご存知の方が少ないのでどんなオルガンなのかをご紹介しようというページです。B-3だけがHammondではありません 。


  目次
一般的なスペック
音の特徴は
全体的な外観
START/RUNスイッチについて
ドローバー
パーカッション
ビブラートとその他のコントロール
エクスプレッションペダル
フットペダル
内蔵スピーカー
鍵盤
真空管アンプ
鍵盤の後ろ側
トーンホイールジェネレータ
サイクルコンバータ
あとがき


 
一般的なスペックから

右の写真は、Hammond Organ Companyが作成した当時のカタログにあるM-3の写真です。スピネットモデルで、見るからに小さくて可愛いのですが、れっきとしたTone Wheel Hammondです。Baby-Bとも呼ばれていて、B-3と同じ構造のビブラートスキャナを持っています。

さて、スペックですが
製造は、1955年1月から1964年1月まで
大きさと重量は、幅117cm、奥行き65cm、高さ88.5cmです。重量は約113Kgです。
特徴は、ホームスタイルのスピネットで内蔵スピーカを持っています。音源はTone Wheel Generatorであり、ドローバは持っていますが、プリセットはありません。
キャビネットは、MahoganyとBlonde Mapleの2種類がありましたが、市場に出たのはMahoganyがほとんどです。 右の写真は、Blonde Mapleだと思いますが、それにしては色が少し濃いです。
鍵盤は、オフセットした2段鍵盤でそれぞれ44鍵です。ペダルは12鍵です。
コントロール類は、上鍵盤用に9本、下鍵盤用に8本、ペダル用に1本のドローバーをもっています。その他のコントロールはすべてロッカースイッチで、パーカッション用に4つ、ON/OFF、VOLUMEがSOFT/NORMAL、HARMONICが2nd/3rd、DECAYがSOFT/FASTです。Vibratoが丸ノブではなく、やはりすべてロッカースイッチで、UPPERのON/OFF、LOWERのON/OFF、CHORUS/VIVRATOの選択、深さとしてSMALL/NORMALとなっています。
内蔵パワーアンプの出力は、11ワットで、口径30cmのフルレンジスピーカを一つ内蔵しています。
その他の特徴として、86個のトーンホイールジェネレータを持っていて、ビブラートスキャナーも持っていますが、フォールドバックがありません。エクスプレッションペダルの左にあるスイッチで、ペダルの音にサスティンをかけることができます。

  簡単に言うとこんなオルガンですが、それでは、それぞれの機能について詳しく見て行きましょう。

 

音の特徴は
  •   クリックノイズは、 小さめです。
  •   もちろん、全体的な音は、まぎれもないTone Wheelの音です。B-3は、シャラシャラと華麗な音も出るのですが、M-3ではこの音は出ませんでした。そんなわけで、M-3の音は暗いと感じる人がいると思います。
  •   高いほうのフォールドバックがないので、フルドローバーにして高いキーにいくほど倍音成分が少なくなるので寂しい音になります。 低いほうは、鍵盤が少ないのでフォールドバック自体が必要なく、鍵盤に対応した音を鳴らしてくれます。
  •   内蔵スピーカーの音はゴキゲンです。レスリーだけにするのはもったいないので、MAIN/ECHOスイッチは、付けたほうが良いでしょう。

 


全体的な外観
  下の写真のように譜面立ての左右にRが付いた外観を持っています。M-2なども同様の外観を持っていますので、M-3だけの特徴というわけではありませんが、なんとなく、アールデコ調で気に入っています。
  上のカタログの写真を見ると、なんか鍵盤が引き出しになっていてしまえるのでは? と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

 

START/RUNスイッチについて
  他のトーンホイールハモンドと同様に、START/RUNの儀式があります。
  サービスマニュアルによると、STARTスイッチを8秒以上、上に押し上げた状態で、RUNスイッチを4秒以上ONにすることとなっていました。私の場合は、秒数を数えるよりも、モータの回転音を聞いて操作していると思います。

  ちなみに何で、スイッチが二つあるかというと、自動車と一緒で通常回転しているモータ(RUNモータといいます。)は、トルクがないため、自動車でいうところのセルモータが必要なためです。STARTスイッチで回転するモータがセルモータにあたります。STARTモータで、RUNモータの通常回転数の少し上の回転数まで上げておいて、RUNスイッチを上に上げると、車のエンジンがかかるように、RUNモータも自発的に回転します。安定して回転しだしたら、STARTスイッチから指をはなすと、写真の位置に戻ります。RUNスイッチは上に倒れた位置で固定します。
  演奏中に、STARTスイッチを上に押し上げると、ピッチがいっきにあがります。演奏中にRUNスイッチをOFFにすると、ピッチが徐々に下がっていきますが、うまいタイミングでRUNスイッチを戻してやらないと回転が止まってしまいます。 そうなると10秒以上演奏がストップします。
  真空管アンプの電源は、RUNスイッチを入れてからONになります。
  M-3のSTART/RUNスイッチは、鍵盤の右下にあるので、演奏者からは見えません。

 

ドローバー

  ドローバーは、写真左から下鍵盤用が8本、ペダル用が1本、上鍵盤用が9本です。
  上鍵盤用の9本は、B-3などと同じ構成ですので説明は省略します。
  ペダルのドローバーは、1本しかなく、しかも単音です。B-3は、基音+7つの倍音が出ますのでかなり違います。この辺が、スピネットです。(笑)
  かなり異色なのが、下鍵盤用のドローバーです。L-100やT-100は7本しかありませんが、M-3は8本です。B-3と比べると16フィートと5 1/3フィートがないのですが、9-2=7ですから8本ですから計算が合いません。
  B-3にはない左から8本目のドローバーは、なんと基音から数えて、24度と26度の二つの音がでます。このドローバーは、H-100シリーズの左から数えて11本目のドローバーと同じ音なのです。この証拠が下の写真です。

  すごく分かりにくいのですが、矢印のドローバには、配線が2本きています。他のドローバーは、どれも1本だけです。
  すでに述べたように下鍵盤には16フィートと5 1/3フィートがないので、低音が出ません。つまり、左手ベースは、ほとんど不可能ということです。その代わりと言ってはなんですが、下鍵盤のフルドローバは、ちょっと他とは違う音がします。左手はコード専門と言う人には、嬉しい機能かも・・・

  また、ペダルのドローバーだけが抵抗ではなく、バリアブルコンデンサにつながれています。下の写真をご覧下さい。

 

パーカッション
  パーカッションのコントロールは、B-3などと場所が違うだけでまったく同じものが付いていますので、Four Upもなんなくこなします。

  写真の下部に見える、レスリースイッチとMAIN/ECHOスイッチは後付けのものです。最初から付いていたものではありません。

 

ビブラートとその他のコントロール
  ビブラートスキャナーを持っているのですが、残念ながらビブラートの丸ノブはありません。かかり具合はロッカースイッチで2段階に調節ができます。ところがビブラートの深いほうは、ピッチの揺らぎが大きすぎて通常の演奏では使用できません。ということなので実際の使い方としては、ビブラートのON/OFFだけでかかり具合は1種類となってしまいます。コーラスのほうは、ピッチの揺らぎがさほど気にならないので、SMALL/NORMALともに有効です。
  上鍵盤と下鍵盤それぞれにビブラートとコーラスをかけるかけないを設定できますが、上と下で別の効果をかけることはできません。

  その他のコントロールは、ペダルのアタックのSLOW/NORMAL、ペダルの減衰のFAST/NORMALがありますが、こちらはNORMAL以外は、 ほとんど使いません。

 

エクスプレッションペダル
  エクスプレッションペダルは通常のものですが、矢印の部分にフットスイッチがあり、これを左に押している間、ペダルのサスティンが効きます。

 

フットペダル
  写真のように12鍵しかありません。つまりCからBまでです。高いCがあると弾きやすさがぜんぜん違うのですが、ないものはしょうがありません。後発のスピネットには、13鍵あるので、さすがに12鍵は不評だったのでしょう。

 

内蔵スピーカー
  Hammondのスピネットタイプには、通常内蔵パワーアンプと内蔵スピーカーが付いています。M-3も例外ではありません。
  この内蔵スピーカーは、フルレンジのものがたった一つなのですが、とてもよい音がします。エンクロンジャーもないくせに、ペダルの低音もしっかり再生するのには驚きました。演奏者以外の位置からだと多少音が変わってしまいますが、演奏者の位置にいる限りバランスの取れたすばらしい音が聞こえます。

  下の写真は、スピーカーを裏側から見たもの。

 

鍵盤
  スピネットタイプですので、上下鍵盤ともに44鍵しかありません。
  気になるのが、上下の鍵盤の音の関係でしょう。上下の鍵盤は、基音レベルでは、上鍵盤から下鍵盤に平行移動すると同じ音が出ます。つまり、上鍵盤の ほうが高い音を1オクターブ多く持っていて、下鍵盤の方が低い音を1オクターブ多く持っています。しかし、ドローバーの倍音構成が違うので、実際に弾いた感じは、 同じようには聞こえずに、ちょっと異なります。だからと言って問題になるほどではありません。

  スピネットタイプでは、めずらしくウォータフォール型の鍵盤を使用しています。 また、この鍵盤(キーの部分だけですが)は、B-3の鍵盤としても使用できます。

 

裏側
  下の写真のように、通常裏側全体のカバーはありませんので、真空管アンプなどが見えています。 なお、オプションでカバーもあったようですが、私は見たことがありません。中段にあるカバーの中にトーンホイールジェネレータが鎮座していますが、カバーを開けないと見えません。トーンホイールジェネレータカバーの上に見える三つの白い点は、ジェネレータへの注油口です。ロート型になっていて上にキャップが付いています。そのキャップを開けて、ハモンドオイルを注油すると、ロートを伝わってジェネレータにオイルが流れていきます。

 

真空管アンプ
  AO-29と呼ばれるアンプです。写真の正面に見える真空管がたくさんささっているものです。一つのアンプに見えますが、マニュアル用アンプ、パーカッション用アンプ、ペダル用アンプ、中間アンプ、パワーアンプの5つが一つのシャーシに入ったものです。

  使用している真空管は、右から

  1. 12AU7
  2. 6C4
  3. 6C4
  4. 6AU6
  5. 6AU6
  6. 12AX7
  7. 12AU7
  8. 6V6
  9. 6V6
  10. 6BA6
  11. 5U4

  の11本です。
  写真の矢印の位置にエクスプレッションペダル用の黒いボックスがありますが、この矢印の部分に出荷時からピンコネクターがついていて、ライン入力として動作します。 ここから入力した音もエクスプレッションペダルの影響を受けます。入力は、最大500mV程度のものを受け付けます。これも使っているのを見たことはありませんが。

 

鍵盤の後ろ側
  下の写真が、鍵盤の後ろ側向かって右側です。黄色い矢印がさしている円筒がペダルドローバー用のバリアブルコンデンサで、その下の水色の矢印がさしているのは、マッチングトランスです。

  下の写真は、鍵盤の後ろ側向かって左側を見ています。黄色い矢印の先にあるのが、ビブラート用のラインボックスで、多段のローパスフィルターを使用して、フェイズをシフトしています。 ラインボックスが張り付いている、小さな平らな板をいくつも上部に持った灰色の大きな箱は、上鍵盤のアセンブリです。
  黄色い矢印の下に見える黒いプレートは、シリアルナンバープレートです。

 

トーンホイールジェネレータ
  さて、それではジェネレータカバーを外してみましょう。
  トーンホイールジェネレータの全貌が見えます。残念ながら、トーンホイール自体(歯車のような円盤のことです)は、この写真では見えません。トーンホイールは、コンデンサーとコイルが山ほど載った茶色いフィルターの基板の下に隠れています。

  下の写真は、ジェネレータの右側を写したものです。お箸の先のような小さな丸い円柱がいくつも見えますが、これがトーンホイールから信号をピックアップするコイルの巻きついた磁石です。この磁石の延長線上に、トーンホイールがあります。
  黄色い矢印の先に、STARTモータがあります。黒い頭がちょっと見えているのがモータです。STARTモータは、小さめです。

  下の写真は、ジェネレータの左側を写したものです。黄色い矢印の先にあるのが、ビブラートスキャナです。スキャナーは、RUNモータによって回転します。B-3のものと同じものに見えますが、 厳密には違うものです。ただし、構造は同じです。
  水色の矢印の部分が、RUNモータです。60Hzの電源周波数に同期して回転します。
  この写真とその上の写真を見ると分かるように、ジェネレータは、4本のスプリングによって吊られています。これは、モータが回転時に発生するメカニカルノイズを、キャビネットに伝えて(キャビネットが響版となって)増幅するのを防ぐためです。
  オルガンを移動するときには、このままだとゆらゆらしてジェネレータがキャビネットにぶつかるので、固定することができます。固定した状態でモータを回すと、案の定、 ガラガラと大きな音がします。

  下の写真は、ジェネレータフィルターと呼ばれるローパスフィルターです。ジェネレータの発生するメカニカルノイズ(高周波)を除去するのが目的です。ジェネレータごとに、異なるコイルとコンデンサを使用しています。コンデンサを持っていないものもあります。
  なお、矢印の先にある小さなお皿は、ジェネレータカバーのオイル注入口から注がれたオイルの受け口です。ここからさらにトーンホイールジェネレータに流れていきます。

 

サイクルコンバータ
  サイクルコンバータは、後付けですが、静岡以東ではこれがないとピッチが下がってしまいますので、必需品です。ジェネレータのモータに60Hzを供給します。アンプにはつながれていないので、アンプは東京だと50Hzのままで動作しています。

 

あとがき
  M-3の当時の価格は、キャビネットの種類によって$1350から$1440でした。当時は$1が360円の時代で、日本での販売価格には、これに輸送費などが上乗せされていたと思いますので、100万円前後であったと想像されます。
  M-3は、その名が示すように、Hammond社最初のスピネットオルガンであるM型の後継機種です。なお、M-3の後継は、L-100やM-100だと言われています。
  日本では、それほどでもありませんが、米国では大量に販売され、今でも大量に存在しています。ebayを検索してみてください。米国での中古価格は、$200から高くても$800止まりで、$800だせばワンオーナーのMINTが購入できます。しかも、玉数も豊富です。また、M-3の部品は、上にも書いたようにB-3などに使えるものもけっこうあるので 、部品取りのオルガンとしても使われています。
 
 
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